バロッサ・ヴァレーでの二軒目の訪問は、昨年5月に日本への来日が記憶に新しい「カレスキー」の紹介です。
カレスキーはバロッサ・ヴァレーだけでなく、オーストラリア国内においても歴史の長い代々家族経営を続けるワイナリーです。
その歴史は1853年から実に160年以上。家族6代にわたりブドウ栽培を続けてきており、長年に渡り、ペンフォールドのグランジなどにブドウの供給を続けておりました。現在7代目にあたるトロイ・カレスキーと兄のトニー・カレスキーの二人がカレスキー・ワイナリーを設立し、自身でのワイン造りに取り掛かりました。
特筆すべきは、カレスキーが所有する畑です。約160年もの間、一度も農薬や化学肥料を使用しておらず、その土壌はまさに「生きて」いるのです。
我々が訪問した際も、畑への見学をさせていただきましたが、畑に足を踏み入れた瞬間に、その表土がまるで上質なマットレスのようにフカフカしており、私の足がまるで沈むかのような、そういった土壌だったのです。
ソムリエとして、世界の様々なワイン産地へ訪問し、多数の畑をみて参りましたが、こんな経験をするのは初めてでした。フカフカの表土には沢山の酸素や有機物が含まれ、ブドウの生育にとっては最高の環境であり、ブドウだけでなく、まるで土壌にまで特殊な活力感のようなものを肌身で感じました。
現在はオーガニック、ビオディナミの認証も受けており、非常に乾燥した厳しい気候下のもと、素晴らしいブドウを育んでいます。ワインの醸造においても、天然酵母にこだわり、フィルターや清澄材は一切使用しないなどのこだわりがあります。
造られるワインはどれも力強く、凝縮感の高さはまさにバロッサ・ヴァレーのその個性を十分に表現していますが、味わいにはブドウ本来のピュアで、透明感のある果実味が主体で、心地よく溶け込んだバイタリティ溢れる酸味が一体感あるハーモニーを奏でてくれます。
これこそまさに、160年以上一切農薬などを使わずに育ててきたブドウがなせる「究極の自然なバランス」だと思います。
またSO2を一切使用していない、『ツヴァイガイスト』というシラーズを使ったナチュラルワインや、バロッサ・ヴァレーで収穫されたヴィオニエを使い、スキンコンタクトを施した、スパイシーでエキゾチックなオレンジワインの『プレナリウス』など、これぞカレスキー!と言わんばかりのユニークなワインもペアリングなどのアクセントで使用しても面白いですね。
バロッサ・ヴァレーのような、その国を代表する有名で知名度があるワイン産地ですと、どうしてもそのイメージが先行してしまい、数ある造り手の各々のフィロソフィーやそれらのミクロクリマなどが見過ごされてしまうことも多々あるかと思います。
ただ、このカレスキーのように、土地の個性を活かしながら、自分たちが持つ信念を曲げずに、ディテールにこだわるブドウ栽培やワインメイキングを目の当たりにし、一言で語ることができないようなバロッサ・ヴァレーが持つ多様性を改めて感じました。こういった、著名なワイン産地ほど、より深く、そして広くその土地を理解し、それらの個性を消費者の方々に伝えていかないといけないですね!
ワイナリーページ:カレスキー(南オーストラリア州 / バロッサ・ヴァレー)
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