4月にセントラル・オタゴより入荷してきたプロフェッツ・ロックの新ヴィンテージ社内試飲会を6月25日に開催しました。今回は、岩田渉氏と内藤邦夫氏のお二人をお招きして、対談形式で3種類のピノ・ノワールと、フランソワ・ミエ氏がセントラル・オタゴで初めて造ったシャルドネ、アンティポード・ブランを共に試飲しながらその魅力について語っていただきました。
vol.2では、フランソワ・ミエ氏がプロフェッツ・ロックで造るアンティポードと、プロフェッツ・ロックの醸造長、ポール・プジョル氏が造るフラッグシップ、レトロスペクトを試飲しながら比較です。
(以下敬称略)
vol.1 vol.1の記事はこちらから
Cuvee Aux Antipodes Blanc 2018
Home Vineyard Pinot Noir 2015
Home Vineyard Pinot Noir 2017
vol.2
Cuvee Aux Antipodes 2017
Cuvee Aux Antipodes 2018
Retrospect Pinot Noir 2015
■キュヴェ・オー・アンティポード 2017 / Cuvee Aux Antipodes
参考小売価格 ¥18,000円(税別)
https://grncorp.co.jp/wine-detail?id=1417
岩田
造り方は、ホーム・ヴィンヤード、アンティポードでそこまで大きな違いがありません。ピジャージュも1回しかしません。
ホーム・ヴィンヤード ピノ・ノワール 2015
https://grncorp.co.jp/wine-detail?id=1415
内藤
一回?!一回ですか?!
岩田
はい。色素を出すというよりは、ピュアさを活かしたいということで、完全に除梗した上でタイミングを見極めて1回だけです。
フランソワさんの息子さんがプロフェッツ・ロックで1年半くらい研修されていた頃、何回もニュージーランドを訪れて畑を見て回った中で気に入ったのがホーム・ヴィンヤードの中にある1haくらいの区画で、そこがアンティポードの畑です。ベンディゴというエリアはシストが多いエリアですが、このホーム・ヴィンヤードは粘土と石灰の土壌になります。
内藤
上がってくるアロマはアンティポードのほうが強いですね。ホーム・ヴィンヤードが湘南の波だとすれば、こちらは南アフリカ、ケープタウンの強風「ケープドクター」を思わるように、怒涛の果実味の波が押し寄せてくる。それに余韻が長い。残糖度がほとんどゼロなのに、ピノ・ノワールの甘味が後から出てきます。
岩田
フルーツの凝縮感とピュアさが、このワインの優美さを物語っているだけではなく、ブドウが完熟したことによる甘やかしいニュアンスや、粘性が強くなるエリアなのでグリセリンの含有量が多く、ねっとりとしながらも緻密な酸味が活かされています。つなぎ目のない滑らかな味わいです。
内藤
物凄い良いアマローネから熱を取ったような、クール・アマローネのよう。
岩田
同じような凝縮感がありながら、アルコールはそんなに高くない。
内藤
クールな酸がものすごく心地よいです。
岩田
2017年でまだまだ若々しい分、先ほどのホーム・ヴィンヤードと比べるとタンニンの主張が強いですが、荒々しいというよりはしっかりとした骨格を作っており力強さが十分にあります。甘くて魅了されるようなフルーツの豊かさが顕著ですね。
■キュヴェ・オー・アンティポード 2018 / Cuvee Aux Antipodes
参考小売価格 ¥18,000円(税別)
岩田
ヴィンテージの特徴から言うと、2017年も2018年もグレート・ヴィンテージというよりは雨が多かった年で、2017年はセントラル・オタゴでは雨により収量が10%程度減りました。2018年のほうが冷涼で厳しかったという意見もあります。外観だけを見ると、2018年のほうがより透明感があります。2017年は黒いフルーツによる甘いニュアンスがありましたが、2018年はスタイリッシュでスマートな印象です。
内藤
そうですね。飲み頃はこちらのほうが早そうですね。
岩田
今飲んでも十分においしいですね。人によって好みが分かれそうです。チェリーやラズベリーなどの赤いフルーツだけではなく、鉄っぽさを思わせるザクロのようなキャラクターや、オレンジの皮やジンジャーパウダーのようなスパイシーさなど、どちらかというとよりブルゴーニュに近いようなものを連想します。
内藤
洗練された感じですね。若飲みをするのであれば、2018年はより親しみがあり素直においしい。熟成のポテンシャルを問うのであれば2017年の果実味と酸がどのように変化するのか期待したい。ロマネコンティとリシュブールのような印象に少し近いです。早飲みでも美味しいリシュブールと熟成させるロマネコンティ。ロマネコンティは若飲みをすると美味しいというよりは凄さだけが残る。アンティポードは凄さもあるけど、今飲んでも美味しい。
岩田
ヴォギュエのミュジニーやボンヌ・マールやレザムルーズと比べて、このアンティポード、何か共通するフランソワさんの哲学を感じる部分はありますか?
内藤
この迫力ですね。特に2017年はピノ・ノワールでここまで大きなストラクチャーで覆いかぶさってくるようなワインはなかなかないので、ここは1つの共通点を感じます。
違いはこちらのほうがソフト。同じ迫力なのに柔らかい。
岩田
確かにヴォギュエは厳格で硬さがあるイメージです。飲み頃がいつかもわからない。悩ましい一面というのがヴォギュエのいいところではありますが、逆にニュージーランドで手掛けるフランソワさんのワインにはそういった難しさというのがいい意味で抜けています。
内藤
肩の荷が下りたというか、楽しみながらワインを造っている感じがしますね。ヴォギュエの看板を背負って造っている日頃の重圧から解放されたかのよう。でもその偉大さは残っている。
■レトロスペクト ピノ・ノワール 2015 / Retrospect Pinot Noir
参考小売価格 ¥17,000 (税別)
https://grncorp.co.jp/wine-detail?id=1403
岩田
1500本程度しか生産されていない希少なワインです。ホーム・ヴィンヤードの2015年と比べるとわかりますが、厚みがあり香りの複雑性が増してきています。スモークしたようなニュアンスやドライハーブ、動物的な複雑な香りが立ち上ってきます。
内藤
タンニンのボリュームにフルーツやハーブ、蜜、動物的なニュアンスなどいろいろありますね。実はタニックなワインはあまり好きではないのですが、このタンニンは見事ですね。他のいろんな味わいをまとめて一つにしているかのようです。
岩田
タンニンの含有量は高いですね。
内藤
でも、色はそうは思わせないピノ・ノワールの色ですよね。
岩田
ピノ・ノワールでこのスタイルは、他の産地を探してもなかなか無いです。
内藤
一般的なイメージではピノ・ノワールでこれだけタンニンを抽出するとガチガチになってしまいそうなものですが。
岩田
バランスが崩れがちですよね。タンニンのストラクチャーが全体の味わいをまとめあげています。調和がしっかり取れているワインですね。強さというのが違和感なくフルーツのフレーバーと共に溶け込んでいます。
内藤
味わいの艶が成層圏を超えて宇宙に行っちゃう感じ。(笑)バランスがいいという言葉ではちょっともったいないような、釣り合うところが飛びぬけて高いところにありますよね。これに合わせる料理は何ですかと聞かれたら、ソムリエとしてどうお答えになりますか?
岩田
ブルゴーニュを連想して、ブッフ・ブルギニョン(牛肉の煮込み)が挙げられると思いますが、これだけ香りが複雑であれば、牛肉の香りはそこまで強いものではないので、ジビエなど香りが強い食材が求められるのではないかと思います。日本であれば猪を使った獅子鍋のようなものも土っぽさがあり面白いですし、ニュージーランドであればラムをローストしたもので召し上がっていただくのが良いかなと思います。
内藤
ローズマリーやタイムなど刺激的な香草のニュアンスが強いので、固まり肉を墨で焼きっぱなしたような豪快な料理とぶつけてみたいですね。普通ならピノ・ノワールを合わせないところに合わせて、知らない世界が広がるようなね。
岩田
繊細な料理というよりは、そういったお料理のほうがセントラル・オタゴのベンディゴというエリアのテロワールを表現したこの豪華で大胆なピノ・ノワールの特徴に合いますね。
タンニンの強さ、アルコールの高さというのを様々な要素でバランスをとっており、ワイン・メイキングのレベルの高さを感じます。
内藤
これだけストラクチャーが複雑なのに造りこんだ感じが全然ありません。そこがまた不思議ですね。
岩田
ピュアというのが全部のワインに共通していますね。
セントラル・オタゴのワインはアルコール度数も高くブドウの凝縮度も高いので、熟成5年もさせたものはポートワインに近いようなフルーツが枯れたようなニュアンスが出やすいのですが、この2015年のレトロスペクトにはそういった側面が一切なく、ブドウのピュアさが年月を経ても健全に保たれています。まだまだこれからどのように発展してくのか楽しみですね。
内藤
20年、30年寝かしたもので飲んでみたいですね。
岩田
最後にニュージーランドのワインはあまり飲まれないとおっしゃっていましたが、セントラル・オタゴのプロフェッツ・ロックのワイン飲んでみて、全体的なイメージやこれからのニュージーランド・ワインへ期待することなどございますか?
内藤
20年前くらいのニュージーランド・ワインは、テクニックに頼る造り手が散見され、非常にアタックが華やかなピノ・ノワールが評価されていたことから、個人的にはネガティブな印象を持っていた部分もありました。
プロフェッツ・ロックは真逆ですよね。本当に自然な造りです。昨年のヤラ・ヴァレーやモーニントンを訪問して気付きましたが、僕が想像していたオセアニアは昭和の話だったのだと。既に違うムーブメントが起きていると思います。これから、プロフェッツ・ロックがさらにビックネームになっていき、若い造り手がここを目指すことによって、こういったワインが世の中に増えていくのであれば、ますます楽しみですよね。
岩田
ニュージーランド含めオーストラリアもそうですが、若い造り手がどんどんダイナミックに新しいワインを提供し続けていますし、そういった方たちのお手本になる造り手がプロフェッツ・ロックだと思います。ニュージーランド・ワインは20年前と比べて造っている人もだいぶ変わっていますし、新しい産地も増えています。知識、ノウハウ、経験を加えながら造り手も成長しており、他の産地以上に注目していきたいですね。
プロフェッツ・ロック(ニュージーランド/セントラル・オタゴ)
キュヴェ・オー・アンティポード 2017 & 2018
Cuvee Aux Antipodes
参考小売価格 ¥18,000円(税別)
https://grncorp.co.jp/wine-detail?id=1417
北半球・フランス、ブルゴーニュのフランソワ・ミエと、南半球・ニュージーランド、セントラル・オタゴのポール・プジョル、2人のワイン醸造家によるコラボレーションキュヴェ。
レトロスペクト ピノ・ノワール 2015
Retrospect Pinot Noir
参考小売価格 ¥17,000 (税別)
https://grncorp.co.jp/wine-detail?id=1403
ヴィンテージから5年間熟成したのちにリリースされた秘蔵ワイン。プロフェッツロック・ロックのホームヴィンヤードが持つユニークな個性を余すことなく表現するために造り出され、 じっくりと時間をかけて熟成した生産本数僅か1,512本のワインです。