若竹煮
春が旬のたけのこが持つ滋味豊かな味わいを活かすのに、ロゼワインにおけるピノ・ノワール由来の赤い優美な果実の甘いキャラクターがこの苦味をしっかりと引き立てる。「苦味」が主体となった素材には、ほのかな「甘味」を加えると、心地よく調和し、「深み」になる。
ヒラメ昆布締め
昆布で締めた、旨味豊かで繊細な風味を持ち合わせるこの料理には、同じく、香りが強すぎず繊細な瓶内二次発酵によって作られたスパークリングワインを。特にその熟成期間が長い場合、澱とともにシュール・リーの状態が長く続くため、酵母の自己消化(オートリシス)による、ワインへの旨味の還元につながる。塩と柚子を振り、楽しむのが良い。
うなぎ蒲焼
日本人が大好きな食材の1つでもあるうなぎ。甘い醤油ダレで香ばしく焼き上げた、うなぎの蒲焼にはカベルネ・ソーヴィニョンやメルロを使った、ボルドーブレンドがおすすめである。地元ボルドーでも赤ワイン煮込みなどで、良く食べられる食材の1つであるが(ボルドーのうなぎは独特な土くさいフレーヴァーを持ち合わせるものが多い)、ここではオーストラリアのカベルネ・ソーヴィニョンを合わせる。
樽熟成による、カカオや甘いスパイスの香りが香ばしい炭のニュアンスや甘い醤油のタレの香りを引き立てるだけでなく、柔らかく熟したタンニンが柔和な食感を持ち合わせる、うなぎのテクスチャーとも調和する。杉の木のような、清涼感を思わせるグリーンなキャラクターがあるものには、山椒を添えるとなお良い。
鴨ロース
ピノ・ノワールは数あるぶどう品種の中でも様々なものと楽しむことができる、最もフードフレンドリーな品種といっても過言ではない。それは和食でもその汎用性の高さが伺える。特に醤油や出汁を使った料理には非常に相性がよく、和食の業態でワインが一種類しか置けない、というときには真っ先にこの品種を挙げるだろう。
ザクロやラズベリーのような赤いフルーツの味わいと、滑らかな酸が鴨肉の血のような香りを引き立てて、上品にまとめ上げる。鴨肉の独特な風味と脂の甘みを活かすペアリング。
シェーヴルチーズのサラダ
春になるとヨーロッパの方から沢山のヤギのミルクのチーズが出てくる。特にフランスでは春や初夏がヤギ乳のチーズの旬とも言われているぐらい味わい深い。脂肪分がもともと少ないミルクなので、合わせるワインも酸味がしっかりとのる爽やかなワインが良い。
特にフランスロワール地方では、様々なタイプのヤギのチーズが作られている。同じようにそれに合わせて地元ではサンセールなどのソーヴィニョン・ブランが楽しまれている。郷土料理に合わせて、地元のワインを合わせるというのは、鉄板の組み合わせであり、私自身が一番重んじる、ペアリング要素の一つでもある。清涼感あるハーブの香りが豊かで、伸びやかな酸を持ち合わせるニュージーランドのソーヴィニョン・ブランと合わせて。
オマール海老のアメリケーヌ
濃厚なエビの旨味が主役のオマール海老のアメリケーヌ。ここでは、特に料理とワインのテクスチャーに注目したい。料理全体がリッチでコクのあるものなので、合わせるワインもそれに同調させるように、柔らかくふくよかなテクスチャーを持つものが良い。
特にMLFをさせたシャルドネは、クリーミーな食感を持ち合わせるため、その相性はさらに良くなる。ワインの提供温度には注意したい。低すぎてしまうとどうしても酸が際立ってしまうため、せっかくの滑らかな味わいが酸で切られてしまい、台無しになってしまう。
ブッフ・ブルギニョン
ブルゴーニュを代表する伝統的な郷土料理、「ブッフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮込み)」。こちらも郷土料理とその地方のワインという鉄板の組み合わせである。
特にニューワールドのピノ・ノワールは果実の凝縮感がブルゴーニュのものと比較すると強いものも多いため、ソースの濃度に注意する。ビストロだけでなく、家庭でも楽しまれている料理であり、我々日本の食卓で食べるような、ビーフシチューやハヤシライスとも相性が良い。沢山の野菜と一緒に煮込むことで、深みが出て、よりワインとの距離感が近づく。
鹿肉のロースト ソースポワブラード
ここでもフランスで良く食される代表的なお肉料理である、鹿肉のローストを。特に伝統的に付けられるソースというのが、「ソース・ポワブラード」である。黒胡椒をふんだんに使ったスパイシーなソースであり、まさにシラー(シラーズ)が持ち合わせる香りと素晴らしいハーモニーを奏でる。
このシラーが持つ黒胡椒のようなスパイシーなキャラクターを「ロタンダン(Rotundone)」と言うが、フランス北ローヌや、ニューワールドでもやや冷涼な気候を持ち合わせる産地から出やすい。オーストラリアであれば、ヤッラ・ヴァレーやマーガレット・リヴァーのシラーを。
ボンゴレビアンコ
春の季節が旬のアサリ。そんな魚介の旨味に溢れるパスタの1つである、ボンゴレビアンコには同じ海の要素を思わせる、白ワインを。産地自体が3つの海で囲まれるマーガレット・リヴァー。(Geographe Bay, Indian Ocean, Southern Ocean)
近年注目を集めるワインが、ソーヴィニョン・ブランとセミヨンのブレンドワインである。フランス、ボルドーで馴染みの深い、ワインのスタイルであり、地元でもよくシーフードプラターなどと共に、楽しまれる。フレッシュでアロマティックなこのワインは余韻でも、潮風を思わせるようなヨードの風味があり、魚介の旨味を増長させ、レモングラスのハーブの香りが爽やかさを与える。
生ハムとルッコラのサラダ
スキンコンタクトを駆使し、造られたワイン(オレンジワイン、アンバーワイン)はペアリングを考察する上で、最も汎用性の高いワインのカテゴリーの1つと言える。酸度はしっかりあり、中程度のアルコールと程よいフェノリックな苦味があるので、野菜や魚、そして白身のお肉にも合わせやすい。特に苦味が強い野菜など、ペアリングのアイテムを考える時に悩ませるものではあるが、そういったカテゴリーの料理でも楽しむことができる。
春が旬のルッコラのような、ハーブの香りと苦味が比較的強い食材でも、心地よいフェノール由来の厚みのあるテクスチャーが苦味を包み込んでくれるので、より口中での一体感が生まれる。
猪の煮込み
じっくりと時間をかけて煮込むことによって、お肉自体が柔らかく、とろけるような食感を持つのと同時に、ソースもしっかりと煮詰まることにより、コクのある味わい深い料理として仕上がる。
このような料理に合わせるワインには、固いタンニンは必要ではない。バロッサ・ヴァレーのシラーズでも、柔らかく甘く熟したタンニンを持つカレスキーのシラーズや、リパッソしたぶどうを数十%加えてある、ブラインド・コーナーのカベルネはその柔和なテクスチャーが、煮込んだお肉の咀嚼とぴったりと調和し、さらにソースのコクと熟した果実のトーンが同調する。猪など風味が強いタイプの肉だと尚更良い。
点心
ペアリングを考察する際に、どうしても一種類のワインでは対応しきれないケースが多く存在する。例えば、お寿司の握りの盛り合わせ。ネタには白身の魚から、貝、イカ、そして赤身の魚に、穴子やうなぎなども載っている。流石にここまでバラエティ豊かだと一つずつのネタにそれぞれ合う、100点満点のペアリングは提供が難しい。中華でも点心のような、シューマイや小籠包、餃子、包子、餅など沢山の種類があるものを一度に楽しむようなスタイルの食事には、スパークリングワインが良い。
クリーミーな泡立ちが、点心の生地の質感にピッタリである。こう言う場合には、ペアリングも完璧に合わせていくアプローチよりは、それぞれのものに合わせられるような無難な相性を取ることもある。
エビチリ
ピリッとしたほのかな刺激があるような料理には、その刺激を和らげるような、ほんのりと甘さがあるようなワインがちょうど良い。コントラスト(対象)を意識したペアリングである。
ロゼワインの赤いフルーツのチャーミングな果実味がほのかな「甘み」を口中で与えるため、そのニュアンスが辛味を和らげ、より奥行きのある味わいを演出する。「辛さ」が全面的に出ているお料理とワインを合わせる際に気をつけないといけないのが、ワインの酸味の強さが挙げられる。酸味は辛さを引き立ててしまうので、より味わい全体が辛く感じでしまう。時には麻痺するような感覚にもなるので、辛いものが苦手な方へのアプローチには注意が必要である。
真鯛の中華蒸し ネギ油ソース
こちらも中華では定番のネギ油を使った香り豊かなお料理の1つ。ネギや生姜を使った、料理には、その刺激的な香り(pungent)を引き立てるような、同じアロマティックなワインがちょうど良い。
そして食欲を刺激するような酸がしっかりと感じられる、ニュージーランドのソーヴィニョン・ブランが真っ先に頭に思い浮かぶ。カプシカムやライムのゼストのニュアンスが、香りを増長させ、フレッシュで活力感のある酸が旬な鯛の繊細な風味を長く余韻にまで持続させる。またはをアロマティック品種であるリースリングも良い。
生春巻き
近年、より多くのエスニックレストランが増えてきており、ますます注目を集めていくだろう。その中でも、我々日本人にとっても馴染み深い料理の一つが生春巻き(ゴイ・クオン)である。フレッシュな野菜をふんだんに使った料理であり、エビや豚肉を添えるのが一般的である。
欠かせない素材としては、好みが分かれる食材の1つであるが、パクチー(コリアンダー)である。パクチー好きな方であれば、是非、リースリングなどの爽やかなで、フレッシュな味わいの白ワインがおすすめである。キリッとした柑橘系を思わせる香りが、料理にアクセントを加え、生き生きとした酸が全体の軽やかさと協調し、前菜で楽しむには最高のパートナーの1つである。ヌクチャムのソースやスィートチリソースと共に。
サテ(焼き鳥)
マレー料理を代表する料理である、サテ。我々からしたら、焼き鳥に近い感覚でもあるので、馴染みやすい料理の1つでもある。独特の香辛料を使ってマリネした鶏肉を、甘めのピーナッツソースで食べるのが一般的である。
Blind Corner のラマートスタイルのロゼ(スキンコンタクト)のスパイシーなニュアンスが、サテのエキゾチックなスパイスのキャラクターを引き立てるし、Stratum Pinot Grisのように、オフドライなスタイルで仕上がっているワインでも、甘さと辛さのコントラストが絶妙に効き、心地よい深みを口中で感じさせる。香りが印象的なエスニックな料理には、合わせるワインもニュートラルすぎる品種よりは香りなどに特徴があったほうが、ペアリングの焦点を合わせやすい。
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